ハーモニカを吹く人

きのうの風の
      忘れもの



 門前のベンチに座り、毎日ハーモニカを吹いているお年寄りがおりました。レパートリーは裕次郎とか、懐メロとか。誰も聴いていない昼間にも、音色に誘われ近所の人々も集う夕方にも、そこには和やかでまた懐かしい風が流れていました。
 いつか声をかけ、写真を撮らせてもらおうと思いつつ、きっかけが得られないまま日々が流れました。

  ある日お年寄りは、突然この世を去りました。

  きのうと同じように吹く風の中、もうあの音色が流れることはなくなりました。

  私たちは誰もが、明日は今日と同じようにやって来ると信じています。しかし時は人々の生死(しょうじ)と共にゆっくりと、確実に流れて行きます。
 だからこそ、日々の得難き出会いを大切にして、お互いの心を分かち合っていかなければならないのだと、実感させられました。
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